インタビュー
映画が好きです。

vol.02 韓 英恵さん(女優)

「疲れた時は家に引きこもって廃人のように映画を観ています」

 独特の空気感で観る人を魅了し続けている、女優の韓英恵さん。ミステリアスな少女というイメージが強かったですが、現在22歳。もうすっかり大人の女性です。プライベートでもよく映画を観るという韓さんに、好きな映画のこと、出演作のことをうかがいました。

──まずは12月15日公開の主演作『たとえば檸檬』、どんな作品ですか?

 片嶋一貴監督とやらせていただくのは2回目。前回の『アジアの純真』とは全く違う「愛」をテーマにしたとてもシリアスな内容です。母と娘の歪んだ愛。過干渉であったり虐待であったり、自分の経験にはないことばかりだったので、けっこう大変でした。映画の中で扱っているボーダーライン(境界性パーソナリティ障害)という病気についても、初めは全く知りませんでした。病院の先生に話を聞いたり、本を読んで学ぶうちに、実はとてもありふれた病気で、誰にでも起こりうるようなものだと知りました。それからアクセサリーデザイナーを目指しているという役柄だったので、実際に彫金学校に通って指輪を2個作りました。やってみるとクセになるというか、すごくハマッてしまって、待ち時間の間もずっとやっていましたね。

──片嶋監督は事務所の社長でもありますよね?

 そうなんです。でも、幼い頃から近くにいるので、社長さんというよりお父さんという感じです。普段は全然普通の人なんですが、撮影に入るとすごく厳しいですね。役者の限界以上を求める方なので。『アジアの純真』の時は、私自身の生き方にも通じる作品だったので、私の本心、やり方に任せてくれたんですが、今回はテーマが全く違いましたから。厳しく演技指導が入ったり、限界まで何度もテイクを重ねたりと、けっこう攻められました。追い詰められましたね。

── 一番辛かったシーンは?

 高層マンションの一室での綾野剛さんとのシーンです。天候にも恵まれなかったこともあり、27テイクもやりました。長回しのシーンだったんですが、床のばみりを無視して動いてしまってNGになったり......。感情のままに動いちゃうのも私のいけないところなんですが、そのシーンはかなり辛かったですね。あの時期はほんとに役とシンクロして、自分までおかしくなってましたね(苦笑)。

──かなり重たい役で、本来の自分との切り替えには苦労しましたか?

 私は仕事の時以外は静岡の実家で暮らしていて、東京に来ると仕事の顔、静岡に帰ると自分に戻れているんです。今回の作品は静岡での撮影が多かったので、撮影のあとに自分の家に帰れたのがすごく楽でした。お母さん嫌い!っていうような役を演じていながらも、プライベートでは家族や母に救われていたんです。

──東京に住もうとは思わない?

 東京に出て一人暮らしするというのは、今のところはあまり考えていないですね。静岡に住んでいると、切り替えができるんです。仕事とは全然関係ない友達といろんな話をすることで見えてくる感情であったり、静岡での普通の生活の中で得るものを演技に反映したいから。静岡には戻ります、絶対。

──役作りで参考にした映画はありますか?

 初めから終わりまでボルテージがずっと上がったままという意味で、ニュアンス的には『ブラック・スワン』とちょっと似ているんですよね。そういった映画を参考にしたりはしました。あとは役作りとは関係ないですが、共演の役者さんが出演されている映画も観ました。今回は綾野剛さんとの絡みが多かったんですが、出演作のなかで特に印象的だったのは『渋谷』です。静岡のレンタルビデオ屋には置いてなかったので、剛さんの事務所に連絡して送ってもらったんですが(笑)。すごく剛さんのカラーが出ている映画で、楽しく拝見しました。

──綾野剛さんといえばミステリアスなイメージですが、実際にはどんな人なんですか?

 普段は普通に笑うし、がんがんおしゃべりですね。それに、すごく気遣いができる方。年が離れていることもあって、助けてもらったり、私も頼ってしまうことが多くて。あと実は、キスシーンが初めてだったんです。10年目にして初めて(笑)。その相手が剛さんだったんですが。すごく思い出深いですね。最初はすごく恥ずかしくて、その心情を剛さんもわかってくれていて。だからテストの時からチュッチュしてました。剛さんのお陰で吹っ切れましたよ。でもやっぱり緊張はしますよね。人に見られたりするのは恥ずかしいです......。

──初キスシーンも体験し、デビューから10年が経ちますが、これまでの出演作の中で転機になった作品はどれですか?

 自分をさらけだすことができたのは『アジアの純真』ですが、転機というと女優という仕事の始まりだった『ピストルオペラ』ですね。初めてにしていきなり、鈴木清順監督というすごい人とやらせてもらって。それから『誰も知らない』では初めてカンヌに行って、こんなに評価してもらえるんだ!って嬉しかったのと同時に、映画に出ることの面白さを知って。そのあとの『疾走』も楽しかったですし。ひとつひとつの作品を通して、いろんな段階を踏んでいけているのかな、と思いますね。

──そんななかで『たとえば檸檬』は韓さんにとってどんな意味を持つ作品ですか?

 今までで一番、精神が疲れましたね。自分の限界を見たというか。これ以上はもしかしたら出ないかもしれない。でもここまで出たんだから、それ以上ももしかしたらできるかもしれない!って気持ちになれました。

──ちょっと話が変わりますが、普段はどんなジャンルの映画を観るのが好きですか?

 シリアスな映画を観ることが多いですね。最近は仕事以外にも大学のゼミが忙しく、なかなか映画館に出かける時間がとれてないんですが......。
 『たとえば檸檬』で共演している綾野剛さんが出演されていることもあり、もりおか映画祭で『るろうに剣心』を観ました。アクションがすごかったですね。実はるろ剣のマンガが好きなので、すごい楽しかったです(笑)!

──韓さんがるろ剣って、ちょっと新鮮です!

 従兄弟のお兄ちゃんが近くに住んでいて、子どもの頃から兄妹のように仲がいいんです。お兄ちゃんたちの影響で、るろ剣のほかにも『名探偵コナン』『ドラゴンボール』『らんま1/2』は欠かさずに読んでましたね。コナンは今も新刊が出る度にお兄ちゃんから回ってくるし、劇場版も毎回観に行っています!

──映画を観たくなるのはどんな時ですか?

 疲れた時に観たくなります。家に引きこもりたい!という気分の時は、近くのレンタルショップでDVDを借りては観てというのを廃人のように。多い時は1日5本ぐらい、朝からずっとテレビの前に座って見続けています。ただシリアスなものを立て続けに観ると死んじゃいそうになるので、3本観たら1本はラブコメを入れるようにしています。
 静岡の実家で暮らしているので、近くに観たい映画を上映している映画館があまりないんですよね。ミニシアター系の映画が好きなので......。だからDVDになるのを待つんですが、田舎なので新作が入ってくるのが遅いんですよ!

──ついつい何度も観てしまう映画はありますか?

 『フラガール』ですね! 映画に影響されてフラをやっていたこともあるぐらい、好きです(笑)。蒼井優さんが大好きなんですよね。かわいいなぁと思いながら、ふにゃふにゃでへでへしながら観ています(笑)。男子のような気分で。共演してみたい気持ちもありますが、恐れ多くてきっと何も話せません(笑)。そのぐらい、好きなんです。蒼井さんの魅力は、自由なところ。自由奔放に生きていそうだなって。私のテーマも、自分らしく生きることです。いろんなことを、あまり隠したくもないから。自由に生きられたらいいなって。

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──かなり唐突ですが、韓さんは友達が多いですか?

 静岡に住んでいるので、役者さんの友達はあまり多くないですね。東京の人たちとはどうしても疎遠になってしまいます。かといって静岡でもあまり多い方ではないと思いますが、大学や高校時代にできた友達とは、ひとりひとり深く付き合っています。

──最後に、友達がいない人にメッセージをお願いします!

 私も多い方ではないのでアレですけど......。でもひとりの人ってやっぱりいないじゃないですか! たぶん誰かしら、いると思うんですよ。その少ない友達を大事にできればいいと思います。私も疲れた時は映画に頼りますし。自分の心情に合わせて映画を選んで、観て、気持ちを消化できればいいんじゃないかなって思います。

韓英恵さん、ありがとうございました! 

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映画『たとえば檸檬』より


映画『たとえば檸檬』は、12月15日にシネマート六本木でロードショー! 残酷で、重くて、痛くて、切ない。でも見終えるとなぜだかすべて美しく感じてしまう、不思議な余韻がある映画です。ひとりで観るのにも最高の映画です。ぜひ、観に行ってみてください!

(写真/清水コウ 取材・文/根本美保子)

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韓英恵(かん・はなえ)

1990年11月7日生まれ。僅か10歳の時に『ピストルオペラ』(01年/監督:鈴木清順)で小夜子役に抜擢される。以後、その個性的な顔立ちから気鋭の監督とのコラボが続く。主な出演作に『誰もしらない』(04年/監督:是枝裕和)、『疾走』(05年/監督:SABU)、『マイ・バック・ページ』(11年/監督:山下敦弘)、『アジアの純真』(11年/監督:片嶋一貴)など。

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