連載
二階堂武尊のB★CINEMA ブッダものけぞる映画笑論

ハリウッドを出し抜く娯楽の快楽
〜人生の総合映画『きっと、うまくいく』

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 いやあ、インドという国は、まったくとてつもありませんな。
 ハリウッドが生み出した映画の文脈をいとも簡単に越えていくインド映画の底力。

 本作品は、三人の理系インド人学生の友情を基軸に、生きていくことに必要なあらゆる励ましと勇気をぶちこんだ、人生の総合映画です。
 インド映画はとにかく長い。でも、この映画はあっという間に、見終えてしまいましたね。2010年のインドアカデミー賞を史上最多の16部門独占した話題作です。

 主人公のランチョーは、とにかく型破りな自由人。成績はトップでありながらも、詰め込み型の大学教育にことごとく反発していきます。その反発の仕方がユーモラス。二人の友人もそんなランチョーに戸惑いながらも彼を受け入れていきます。

 IT分野などで発展の著しいインド。そのめまぐるしい発展の中で、競争にもまれる大学生の生活がこの映画では垣間見られます。追い詰められて自殺する学生などもいて、全編ユーモラスな映画の中に、深刻なテーマも織り込まれています。

 そんな窮屈な大学生活の中で、ランチョーはつねにユーモアを持ち、周囲の士気を高めていきます。そういうとど根性映画のように聞こえますが、その反対。彼の口癖は「きっと、うまくいく」。どんな深刻な事態に置かれても、肩の力を抜く、その場を楽しむ、肯定的に考える。
 親友たちは、学業に追い詰められつつも、彼のマインドに心を開き、見事にドロップアウト(!?)していきます。

 なんか、他人ごとではありませんね。我々も過酷な格差社会で競争を強いられております。わたしなんぞ、すでにドロップアウトを完了していますが、お若い皆さんは、「そんなの関係ねえ」といいながらも、同級生たちの動向を横目で見ながら一喜一憂されているのではないでしょうか。

 学歴、地位、お金など、他人と比較したら、それはもう大抵の人は、げんなりする現実が待っています。
 ニーチェの書物の中に、「背中にこぶのある男」の逸話があります。背中にこぶのある男から、こぶをとってしまったら、その男はどうなるでしょうか。その男はその男の人生、これまで生きてきたすべてを否定してしまうことになります。それは自分の人生に対する裏切りです。

 だから、私たちは持って生まれた人生の「いま」を肯定して、そこからどう生きるかを考えるべきであり、いままで自分が与えられてきた境遇を嘆くことは、自分に対する愚弄です。
 ランチョーのような軽やかな生き方が、いまの日本にも心地よいですな。

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二階堂武尊(にかいどう・たける)

1964年生まれ。大手出版社勤務の後、独立。近著に『29歳からはじめる ロックンロール般若心経』(フォレスト出版)、『ぎゅーたん!「十牛図」で学ぶプチ悟りの旅』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。リストラ、転職や借金、それらにともなうメンタルな病理などに、長いサラリーマン体験を生かしたユニークな対処法を提案。高校生から中高年まで幅広いファンの支持を得る。一見、ふざけているのかと思われる作品群の奥に、仏教的な癒しや悟りの感覚を漂わす。ブルースとジャズを愛する陽気なオッサン。無類の犬好きでもある。
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