連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第108回 『ジュラシック・ジョーズ』

『ジュラシック・ジョーズ』DVDジャケット(筆者私物)

『ジュラシック・ジョーズ』
1979年・フィリピン、アメリカ・85分
監督/チャールズ・グリフィス
脚本/アン・ディアー
出演/サム・ボトムズ、スーザン・リード、ヴァージル・フリューほか
原題『UP FROM THE DEPTHS』

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 昭和のテレビは夏になると怪談を流していたが、ここ数年のトレンドはサメ。そこで今回は、一般的には最低映画の烙印を押されているが、このコラムの読者なら楽しんで観るに違いない逸品を紹介しよう。
 製作総指揮はロジャー・コーマンで、プロデューサーは当コラム第14回『彼女がトカゲに喰われたら』の監督でもあるフィリピン低予算映画の帝王シリオ・H・サンチャゴという最強コンビ。これだけでも怪作の予感だが、我々の凡庸な思考力では到底思いつきもしない驚愕の結末が待っていた。


 海洋生物学教授と助手の女子大生(手を付けてる)が、ハワイで海中調査をしている(ロケ地はフィリピン)。ノーブラのスケチクTシャツでダイビングする女子大生は海中で何かに襲われ、血に染まった海面にビビった教授は彼女を見捨てて帰港する。真っ青な顔した教授のもとに漁師が見たこともない深海魚を持ってくると、女子大生そっちのけで「これは大発見かも」と大興奮。コイツには最後にバチが当たります。

 一帯は豪華なリゾート地。スタッフが海中でダイバーウォッチをした女子大生の腕を発見するが、報告を受けたオーナーは客足を心配し警察に届けない。みんなが真似した『ジョーズ』の作劇パターンだ。

 そうこうしているうちに次の犠牲者が出る。ホテルの広報レイチェルが案内していた旅行作家が、『ジョーズ』と『サイコ』そっくりな曲が流れるなか何者かに殺される。音楽は『タイタニック』(97年)でアカデミー賞を受賞したジェームズ・ホーナーだが、エンドロールに名前も出ていない。今や映画音楽の巨匠も、下積み時代はこんなやっつけ仕事をしていたのだ。

 さて、中盤から徐々に怪魚が全容を現していくのだが、ジャケットイラストとは全く異なる失笑必至の面構え。目が出ていて、上唇の上に皺が重なり、歯が一列に並ぶポカーと開けた大きな口がマヌケ面を強調する。体長は4メートルほどか。

 怪魚は宝探しをしている主人公グレッグの船やグラビア撮影現場を急襲して何人か食い殺し、ついに人で賑わう海水浴場へと向かう。ビーチは大騒ぎになり、慌てて浜に上がった人々が悲鳴を上げながら走り回ってぶつかり、丸出しオッパイゆさゆさギャルなど、大袈裟な大パニックシーンが延々と映される。相手は魚なので陸に上がって来れないのに。

 客は続々とチェックアウトし、頭にきたオーナーは怪魚退治にスイートルーム1週間と1000ドルの賞金を懸ける。これには居残った客達もヤル気満々で、ホテルの装飾品になっている現地人の槍を手にし、銃砲店(ホテルにあるんだ)も急な需要に大繁盛する。

 ここでZ級映画史に残るZ級キャラが登場する。一人オチョコで日本酒を飲んでいたスズキさんが片言の日本語で「ソンナ魚殺シチマエ!」(俳優は日系フィリピン人?)。部屋に戻ったスズキさんはオリエンタルな曲が流れる中、鉢巻を締め海パンの上にフンドシという珍妙な姿で日本刀を構え「南妙法蓮華経」を唱え「バンザ~イ!」と叫んで怪魚退治にいざ出陣。そこへオーナーも「グッモーニン、スズキサン」と、両手を地面に着ける前屈ポーズで深々過ぎるお辞儀(笑)。スズキさんは「バカタレ」とか適当な日本語を発しながらフンドシ姿でビーチを歩き回り絶好調〜って日本人バカにしてんのか(笑)! パニック映画のクライマックス直前の緊張感が、唐突なギャグ展開で寸断される謎の演出。そして、そのクライマックスが凄かった。

 グレッグは生け捕りにしたいという教授に協力して怪魚ハントに出る。だが教授は怪魚に襲われ「お願いだ。私を海に捨てないでくれ。あんな奴に食われるのは嫌だ」と言って死ぬ。鎮痛な表情で看取るグレッグとレイチェル。とても悲しい場面だ。こうなったら駆逐だとグレッグは爆弾を取り出す。おびき寄せる餌がないかとキョロキョロすると「これだ!」と教授の遺体に爆弾を装着! ロープで結び海に落として怪魚の餌にしてボートで引っ張る。そんな事する人間いる? グレッグは教授を上回る人でなしだった。

 最後は海に飛び込んだグレッグと怪魚が格闘! グレッグがカチッと起爆スィッチを押すと海面からドカーンと水柱が上がる。怪魚も教授も木っ端微塵だ。グレッグが海面に顔を出すと、周囲の客達やオーナーから歓声が上がる(いやいや普通グレッグもバラバラでしょうが)。浜にいたスズキさんも日本刀を振り回して「バンザ~イ!」(笑)。


 DVDジャケットには「1994年製作」と明示されているが、映像はやけに古臭い。実はこの作品、『ジョーズ』(75年)を意識してコーマンが1979年に製作したテレビ用映画で、どういった経緯か日本で2002年になってDVDが発売される運びとなり、『ジュラシック・パーク』(93年)に便乗し、原題『UP FROM THE DEPTHS』(深海より浮上)がこんなDVD題になったのだ。

 ちなみに怪魚の特撮は、『グレムリン』(84年)のクリス・ウェイラス、『ビートルジュース』(88年)の特殊メイクでアカデミー賞を受賞したロバート・ショートと凄い面子。彼らもジェームズ・ホーナー同様、無名時代の仕事だった。

 さて、怪魚は劇中で一言もサメとは言われず、未発見の古代魚といった扱い。「6500万年前の眠りから目醒めた」といったキャッチコピーも単に恐竜の絶滅年代を使いたかっただけ。怪魚は文献やネット上でナマズといった言及が多いが、ナマズは淡水魚で特徴である口ヒゲは怪魚にはない。実はハワイでは1976年に幻のサメ・メガマウスが新種として発見され話題になっていた。そのものではないにせよ、ヌボーとした顔や上唇の雰囲気から、ひょっとしたらメガマウスをモデルにした可能性も考えられよう。
『ジュラシック・ジョーズ』は決して退屈な駄作ではなく、見どころ満載の愛すべきZ級映画なのである。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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