連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第63回 『首だけ女の恐怖』

『首だけ女の恐怖』
1987年・インドネシア・86分
監督/H・ジュット・ジャリル
脚本/不明
出演/イロナ・アガテ・バスティアン、ヨス・サント、ソフィア・ウェデほか
英題『MISTICS IN BALI』
※VHS廃盤

 首が飛び回る妖怪の伝承は世界各国に存在するが、特に中国から東南アジアに集中している。今回登場する「首だけ女」はバリ島の吸血魔女レヤック(ビデオの字幕ではリアク)の事で、80年代インドネシア・ホラー(第17回『夜霧のジョギジョギモンスター』、第18回『猟奇! 食人族 密林の変態儀式』参照)の中では断トツで面白い!


 アフリカでブードゥー魔術を修行したアメリカ人の魔術研究家キャシーは、黒魔術の本を書くためバリ島に伝わるリアク魔術を取材する。バリに来てすぐ肉体関係を持った島の青年ヘンドラが案内役だ。だが、2人が路チュウや観光名所でイチャついているところを、常に物陰からジーッと見ている謎の女がいる。いったい誰だ?

 リアク魔術師のレッスンを受ける事になったキャシー。修行初日、森の中から「ア~ヒャッハハハ~!」とバカ笑いが聞こえ、夜霧の中からウンコみたいな肌の顔をした小汚いバアサンが登場する。なんとリアク魔術の女王自ら直接指導だ。女王はバリ民族舞踊のようにクネクネと踊り出し「ア~ハッハハハ!」。最初は困惑していたキャシーも真似して「ア~ハッハハハ!」とクネクネ踊りながら女王の後を付いていく。さすがブードゥー経験者、飲み込みが早い。この日はブタに変身する術を伝授されて終了。

 修行2日目。なぜか女王はウンコ顔ではなく、普通のババアになっている。相変わらずバカ笑いを繰り返す女王が胸の前で腕をクロスすると、キャシーの首が「ビチビチ」と抜けていく。首は宙に浮かび、切断面から食道や肺・腸など内臓をブラブラさせている。ついに首だけ女の誕生だ! 猛スピードで夜空を飛んで行くキャシーの首は、産気づいている妊婦を見つけ、その股間に顔を埋め「クチャクチャ」と胎児を食べてしまう。キャシーが戻ると、次は2人で草むらに寝転びニシキヘビに変身する術のレッスンを開始。帰宅したキャシーはヘンドラの前でゲロを吐き、ついでに生きたネズミを2匹吐き出す。ヘビの時に捕食したのだろうが「確か女王と一緒に御馳走を食べたはず......」とキャシー。

 修行3日目。闇夜に浮かぶ火の玉3つ(ワイヤーで吊られている)。2つは女王とキャシーの変身だが、もう1つはかつて弟子だった男。どういう経緯かわからないが女王退治に来たらしい。「ウー!」「ハァッ!」と声を発し、ぶつかり合う3つの火の玉(見ていてバカバカしい)。女王は強く、男の火の玉が「ドボン!」と池に沈没し、プカ~と水面に男の死体が浮かぶ。

 夜な夜な首だけ女が町に出没するため、ヘンドラの叔父さんが立ち上がる。実はヘンドラの叔父さんは、今まで魔女と戦って全戦全勝という、まるで具志堅が育てた初の世界チャンピオン・比嘉大吾(14戦14KO勝ち)のようなパーフェクト・レコードを持つ無敵の祈祷師だったのだ。

 夜になり首キャシーが宿の外へ飛び出すと、その隙に叔父さんが部屋に入り、胴体の首の断面に「プスッ、プスッ」とお線香を3本立てて呪文を唱える。なんでも再び首と胴が繋がれば、女王は無敵になるのだという。叔父さんの呪いで合体できなくなった首キャシーは、諦めてどこかへ飛んで行ってしまう。

 叔父さんはキャシーの胴体を土葬し、その上で座禅を組んで空中浮遊していると、例のバカ笑いで現れる女王と首キャシー。叔父さんに「前は負けてやったが今度は勝つぞ」と強気の女王は、なぜか右目が潰れている。女王は、まるでテレビ番組で見るたび髪型が変わっている乃木坂46の若月佑美のように、登場するたび外見を微妙に変えているのだ。

 さあ決戦開始だ! 女王の念力に叔父さんは空中浮遊で対抗。女王は口からキングギドラのような稲妻型の光線を胴体の埋葬場所に「ドカーン!」と命中させる。すると穴の中からムックリ胴体が起き上がり、キャシーの首と合体! 勝ち誇る女王は鋭い爪で叔父さんの喉元を「スパッ!」。ついに宿敵を倒しバカ笑いする女王。笑い過ぎだ。

 ヘンドラに絶体絶命の危機が迫ったその時、向こうから棒きれ持った謎の女がタタタと走ってきて女王に殴りかかる! みんな(筆者も)ポカーンとするが、さすが百戦錬磨の女王は攻撃をかわし返り討ちにする。瀕死の女にヘンドラが駆け寄り「マヤ! どうしてこんな事を」。唐突に判明する謎の女の正体。女は以前ヘンドラが捨てた前カノで、まだヘンドラを愛するがゆえに命懸けで助けにきたのだ(泣ける)。

 引き続きピンチ到来のヘンドラ。「待て!」と、そこへまた新たなる人物が! 両腕を組んで偉そうに立っていたのは、白い布を頭に巻き、上半身は裸で下半身には白い布を胸の真下まで持ってきて巻き、背中に刀を差した超アブナイ扮装をした叔父さん! 生き返ったのか叔父さん! いや違う。女王「出たな、大騎士ギデオカ......」。なんと叔父さんには特撮ヒーロー的な瓜二つの兄がいたのだ(一人二役)!

 ギデオカと女王は両手から「ビビビ」と光線を撃ち合い、一進一退の攻防。ギデオカの霊力で五体が空中分解した女王だが、手足が「カシン、カシン」と合体してからブタ女に変身! なかなか勝負が着かず観ている方も飽きてくると、「コケコッコー」と朝日が昇り、女王とキャシーはあっさり死亡(基本、吸血鬼)。ヘンドラとギデオカが顔を見合わせて完。


 首だけになり胎児を食べ、ブタや大蛇に変身する魔女、それと戦う聖者。バリ島の民間伝承を忠実に盛り込み、飛び交う光線、唐突にわかる謎の女の正体、どんでん返しに登場する叔父さんの兄など、意外性に溢れた展開が大いに楽しめた作品だった。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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