連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第60回 『ヴァルドマー事件の真相』

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 今年7月16日、ゾンビ映画の生みの親として「マスターズ・オブ・ホラー」と呼ばれたジョージ・A・ロメロが、全世界のホラーファンに惜しまれてこの世を去った。無名時代のロメロが低予算で制作し、今やニューヨーク近代美術館所蔵、アメリカフィルム登録簿に永久保存登録となっている『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)。ゾンビ映画の最高傑作『ゾンビ』(1978年)。残酷描写を極め、マッドな博士と実験体ゾンビ「バブ」の不思議な友情が泣かせる『死霊のえじき』(1985年)。これらは「ロメロのゾンビ映画3部作」と言われ、1980年代以降に限りなく製作された亜流ゾンビ映画の原典となった。

 もともとゾンビとは、中米ハイチのブードゥー教による奴隷目的で蘇らせた罪人の死体を指す。そういった意味では世界初のゾンビ映画は『恐怖城 ホワイトゾンビ』(1932年)で、他には『ブードゥリアン』(1943年)、『ゾンビはニュースキャスター』(1990年。本コラム第58回参照)などがある。そして「人肉を食う。噛まれた者もゾンビになる。頭を破壊すれば動きが止まる」といったお約束はロメロ作品によって定義付けられ、これを「モダン・ゾンビ」と呼んでブードゥー系ゾンビとは区別するのがホラーマニアのこだわり。つまりロメロは、厳密には「モダン・ゾンビ映画の生みの親」なのである。

 さて今回、追悼の意を込めてロメロの作品を紹介するのだが、専門誌でも取り上げられることの少ない短編にスポットライトを当ててみたい。1990年、ホラー映画界の2大巨匠に、世界的に有名な怪奇幻想小説家エドガー・アラン・ポー原作の映像化を競作させる企画物ビデオ『マスターズ・オブ・ホラー 悪夢の狂宴』が発売された。1人は『サスペリア』(1977年)で一世を風靡し、『ゾンビ』でもロメロと提携しているイタリアホラー界の重鎮ダリオ・アルジェントで、何度も映像化されている『黒猫』(1843年)を担当。もう1人がジョージ・A・ロメロなのだが、『ヴァルドマー事件の真相』(1845年)という、あまり知られていない作品を手掛けた。ちなみに両作品の特殊メイクは、『ゾンビ』『死霊のえじき』でもお馴染みのトム・サヴィーニ


 まず冒頭でボルチモアに残るポーの生家が映し出され、「エドガー・アラン・ポーに捧ぐ」というナレーションが入り、ビデオの前半を占めるロメロの作品が始まる。豪邸に住む大富豪の老人アーネスト・ヴァルドマーは、重篤な状態に陥っている。若いジェシカ夫人は主治医ロバート(ジェシカの元カレ)と共謀して、夫が生きているうちに全資産を相続しようとする。アーネストは、ロバートのメトロノームを使った催眠術で意のままに操られ、株の売却を不審に思った顧問弁護士が電話を掛けてくればロバートの言う通りに話し、ジェシカが持ってきた財産譲渡の書類にサインをするのであった。

 ジェシカを演じるのは、『ハロウィン』シリーズや『遊星からの物体X』(1982年)などで知られるジョン・カーペンター監督の前妻エイドリアン・バーボーで、ロメロの『クリープショー』(1982年)にも出演していた。そして、ジェシカに腹黒さを感じているのか悪態をつく看護婦役には、当時のロメロ夫人(のち離婚)クリスティーン・フォレスト。両君のトゲトゲしい会話も見所だ。

 さて、ここで2人の計画に誤算が生じる。資産の名義変更には煩雑な手続きを本人のサインでクリアしていかなければならないのだが、それらが完了しないうちにアーネストが急死してしまう。強欲な2人は手続きが完了するまで、地下室にアーネストの死体を冷凍保存して隠す事にする。

 だが、しばらくして地下室から呻き声が聞こえてくるので冷凍庫を開けてみると、コチコチに固まったアーネストが「私は死んでいる」と話し出す。確かに脈はなく、まさにリビングデッド(ロメロが題材に選んだ理由はここ?)。

 ロバートは「催眠状態で死んだから、意識が残っている」と仮説を立てる。録音しながら問診するロバートに、アーネストは逼迫した様子で「私は死後の世界と現世にまたがっている。"奴ら"は私を使ってこちら側へ来る気だ。手遅れになる前に起こしてくれ」と懇願する。その時、ジェシカがアーネストの頭部に弾丸を2発撃ち込む。感情的で拙速なジェシカの行為に、病死の遺体に弾倉ができ裏工作が面倒になった事を責めるロバート。

 ここでゾンビなら頭を撃たれて活動を停止させるのだが、アーネストは催眠術に掛かったまま死んだレア・ケースのリビングデッド。冷凍庫から這い出て「私じゃないんだ。"奴ら"が動かしているんだ」と迫るアーネストに2階まで追い詰められるジェシカ。彼女はアーネストを銃撃するが全く効かず、揉み合って2階の手すりを越えて転落死する。

 庭でアーネストを埋める穴を掘っていたロバートが駆け付け、「あ、そうか」と催眠術を解くために「1、2、3......」と5カウントをとり始める。これが効いて(効くのかい!)倒れるアーネストだが、「遅い。もう"奴ら"は私なしで向こう側には戻れない。お前の中にいるぞ」と言い残して倒れる......。結末はDVD&ブルーレイディスクで!


 後半の『黒猫』は、アルジェントが得意とする一人称カメラワークも健在でグロ度も高く、ショッキングな結末にゲゲッ。ロメロ・ファンには残念だが、ビデオを観たホラーファンの殆どはソッチに軍配を上げている。ゾンビ3部作が偉大過ぎて、他の作品の評価が全体的に低いロメロは当時も低迷期と言われていた。今回も追悼なのに敗戦試合を紹介してしまったようで申し訳ないが、こういった地味な作品をじっくり鑑賞するのも悪くない。興味あれば「奴ら」が出てくる終盤をその目で観てみよう。不思議だよ(笑)。

 2年前、ロメロの息子であるG・キャメロン・ロメロが、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の前章となる『オリジンズ』の製作予定を発表した。劇中で謎のままになっているリビングデッド誕生の秘密が明かされるというから、これは観たい! 企画は宙ぶらりんのようだが、実現することを祈る。

(文/天野ミチヒロ)


おまけは、ビデオ版のジャケット

マスターズ・オブ・ホラー 悪夢の狂宴.jpg

『ヴァルドマー事件の真相』
原題『THE FACTS IN THE CACE OF MR.VALDEMAR』
~ビデオ『マスターズ・オブ・ホラー 悪夢の狂宴』より

1990年・イタリア・60分
監督・脚本/ジョージ・A・ロメロ
出演/エイドリアン・バーボー、レイミー・ザダほか

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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