連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第26回 『首狩り農場 地獄の大豊作』

『首狩り農場 地獄の大豊作』<br>原題『DEMENTED DEATH FARM MASASACRE…THE MOVIE』<br>1986年・アメリカ・82分 ※ジャケには86分とあるが、実際には4分足りない。<br>監督/フレッド・オーレン・レイ、ドン・デービソン<br>出演/アシュレー・ブルックス、ジョージ・エリス、ジョン・キャラダインほか<br>ビデオ/徳間コミュニケーションズ(廃盤)
『首狩り農場 地獄の大豊作』
原題『DEMENTED DEATH FARM MASASACRE…THE MOVIE』
1986年・アメリカ・82分 ※ジャケには86分とあるが、実際には4分足りない。
監督/フレッド・オーレン・レイ、ドン・デービソン
出演/アシュレー・ブルックス、ジョージ・エリス、ジョン・キャラダインほか
ビデオ/徳間コミュニケーションズ(廃盤)

 実りの秋である。そこで今回は稲刈り、じゃなくて『首狩り農場 地獄の大豊作』だ。製作は『悪魔の毒々モンスター』で有名なトロマ。監督は『地獄の武装都市 復讐のターミネーター』『女切り裂き狂団チェーンソー・クィーン』『キラーアンツ 巨大殺人蟻の襲撃』など、アクションからホラーまで何でもこなす最低映画の匠、フレッド・オーレン・レイだ。ビデオジャケットの解説には、「ハーシェル・ゴードン・ルイスの『2000人の狂人』、トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』を思わせる爆笑と戦慄のスプラッター・コメディ」とある。どちらの作品も皆さんには説明不要だろう。アメリカンホラー特有の、人里離れた場所に迷い込んでガイキチに殺されちゃうアレだ。

 さて「首狩り」とは、行われていた土地や部族でその理念は異なるが、ひとつに「豊作や豊漁・豊猟を確保するための古い宗教的な慣習」だそうだ。そうか! ビデオジャケットのイラストに描かれた大鎌を構えたグラマーねえちゃんが、訪問者の首を斬り落として豊作を願うというイカレた村の話だな。後ろで首吊っている男がキーか?

 私は購入した映像ソフトは放置せず、どんなにしょーもない内容であっても全て観て楽しめる主義なのだが、このビデオに関しては言いようのない不安を感じ、15数年ほど前に買ったきり、まだ1度も観ていない。これを機会に再生してみようではないか。

 冒頭、夜の森の中にスーツ姿の老人がいて「私は地獄の裁き人」と語り出す。お、ジョン・キャラダインではないか。名画『十戒』から珍作『ビリー・ザ・キッド対ドラキュラ』まで仕事を選ばない俳優で、映画ファンには『キル・ビル』のビル役デビッド・キャラダインの実父として知られ、怪獣マニアにはお蔵入り映画『獣人雪男』の海外版『HALF HUMAN』で、米国公開用に撮り足した部分の博士役としても有名。今回は『世にも奇妙な物語』のタモリみたいなホスト役だ。

 宝石泥棒の男女4人組がニューヨークから逃亡中、南部郊外で偶然見つけた新婚家庭に転がり込む。トウモロコシ畑を営むそこの主人ハーレンは変わり者で、借金の形に債務者の娘を押し付けられたのだが(何ちゅう父親だ)、スケベなくせに敬虔なクリスチャンのためヤセ我慢して、2周り以上も若いグラマー美人妻に一度も手を付けていない。欲求不満の若妻はファザコンなのか、年の離れた不細工な腹ぼてジジイでもOKらしく、毎晩セクシー下着を着て迫るが、ハーレンは聖書を暗唱しながら逃げ回るのだ(もったいね~)。

 そのやり取りを覗き見していた泥棒メンバーのカートは「これはやれる!」と、旦那不在の隙に若妻を頂いてしまう。だがカートの女が現場を押さえ半狂乱となり、「このドロボー猫!」と、若妻とキャットファイト。しかし女は若妻に酒瓶で頭部を強打されて死亡。スプラッターなのに、開始45分でやっと人が死ぬ。カートは人を殺しちゃって落ち込む若妻に、「庭に殺した女が埋まった家で、一生狂ったジジイと暮らすのか? 俺と来ればメキシコやマイアミに行けて、キレイな服だっていくらでも着れる」と懸命に口説く。

 そうこうするうちにカートとハーレンが揉み合いになる。拳銃を持つカートが優勢だったが、必死に抵抗するハーレンに干し草用農具のフォークで刺されて死亡。お次は南部の農村らしく陽気なカントリーミュージックに乗って、ハーレンと泥棒グループのリーダーによるカーチェイス。そんなドタバタ追跡劇の果てに、劣勢だったハーレンは拾った枝でリーダーを運よく殴り殺し、またしても逆転勝利。夫婦揃って田舎者の体力勝ち!

 命からがら帰宅したハーレンは、泥棒が置いていった宝石を見つけ「これを売ったら金持ちだ!」。だが、ここで若妻は宝石を一人占めしたくなり、カートの持っていた拳銃で喜色満面のハーレンを撃ち殺す。最後にジョン・キャラダインが出てきて「ほら、私の思ったとおりでしょ?」で完。う~ん、つまんねぇ......って、これホラーじゃないぞ(笑)。女が鎌を持つシーンも、首が狩られるシーンも、首を吊るシーンも一切登場しなかった。不安的中! 徳間(ビデオ発売元)め~。今回の作品鑑賞は、私にとって「地獄の大凶作」でした。

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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